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ドキュメンタリー映画を使用した演習で、視聴前と視聴後の人の意識の変化を検証

東洋大学理工学部

都市環境デザイン学科

教授 及川 康さん



今回は、東洋大学理工学部都市環境デザイン学科3年生と東洋大学大学院の理工学研究科都市環境デザイン専攻の授業でアジアンドキュメンタリーズをご活用いただきました。担当教授の及川先生は、災害社会工学を専門にされ、自然災害に対する住民の対応行動や危機意識に関する研究、防災行動と防災情報との関係に関する研究、防災をめぐる行政と住民とのコミュニケーションのあり方に関する研究、などに従事されています。近年では避難情報廃止論や臨床防災哲学などの論考を発表されています。


――大学の理工学部でドキュメンタリー映画を授業に活用されたことは今までありませんでした。どのように、アジアンドキュメンタリーズをご活用いただいたのでしょうか?


(及川先生)じつは、10本のドキュメンタリー映画のうち7本の作品を演習の授業で使わせていただいたんです。作品を視聴する前と、視聴した後で、人の意識がどう変わったのかを調べるためです。何かを見たり体験したりして刺激を受けたことで、何がどう変わり得るのかをテーマにしました。


――人の心がどういう時に動くのか。人の心がどんな時に変わっていくのか。それを検証するというか、体感するというか、そういうことでしょうか?


そうとも言えますね。環境、防災、都市計画、まちづくり、気候変動、限界集落、政策、公害、人口減少、被災者救済といったキーワードは、都市環境デザイン学科の教科書的な授業でもよく扱われますが、いずれも正解のないものであって、さらに将来学生が、こうした社会課題について住民と一緒に考えていく場面や、時には住民の行動変容、気持ちの変化を促さなければならない場面に遭遇することもあるでしょう。その時に、行政から住民に対して一方通行の目線ではダメで、一緒に変わっていくというスタンスが大事だろうと考えています。人々の態度を変容させるためにはどういう情報を提供すればいいんだろうかということを考える機会になればと思いました。


――具体的には、どのような形で演習を行ったのですが?


「科目A」の学生と「科目B」の学生がそれぞれドキュメンタリー映画を視聴し、見る前と後で自分たちの何が変わったのかを話し合い、論点(=検証仮設)をまとめます。そして、その論点の「確からしさ」(見る前と後で変わるのは自分たちだけではなく、他の人もそうなのか)を把握するための調査票(アンケート)を作成しました。そして、「科目A」のメンバーが作成した調査票に「科目B」のメンバーが回答し、一方、「科目B」のメンバーが作成した調査票に「科目A」のメンバーが回答しました。いずれも、作品を見る前と、見た後で、同じ問いに対する答えが変わったのか、もしくは変わらなかったのかを調べました。


例えば「プラスチック・チャイナ」を例にご説明します。



まず、この作品を視聴し、見る前と見た後で自分の意識がどう変わったのかを分析し、メンバーで話し合います。そして最もこの作品を視聴することで変わると想定できる論点を1つ選び、調査票を作成します。


『プラスチック・チャイナ』 調査票

問1:あなたは現在の「学ぶ環境」に満足していますか?



そして、調査票を作成したメンバーとは違うメンバーが、『プラスチック・チャイナ』を視聴する前と後で調査票の同じ質問に回答します。


『プラスチック・チャイナ』

あなたは現在の「学ぶ環境」に満足していますか?



『プラスチック・チャイナ』 視聴したことで生まれた意識の変化



調査票 問2の回答(一部抜粋)

 

あなたは現在の「学ぶ環境」に満足していますか?

(全く満足していない1-10とても満足している)

◆視聴前「3」 

学力面の学習環境については大体満足しているが、人間性や道徳性に関する学習環境は、自ら学ぼうとしないと満足に学べないことから決して良いとはいえないと考える。

◆視聴後「10」

映像の子供たちと比較して、幼稚園から大学にまで行かせていただいて、自分の学習環境は恵まれていると思いました。前アンケートで問題を誤って解釈していました。

アンケート回答前から、自分の置かれている学習環境には満足していて、映像視聴後は比較し、より恵まれていると思えました。

 

あなたは現在の「学ぶ環境」に満足していますか?

(全く満足していない1-10とても満足している)

◆視聴前「4」

学べている環境が整いきっていると思えないから。

◆視聴後「8」

学校に行けていない子供たちがいることと、字もあまり読めない大人の人に比べると、教育を満足に受けられていると思う。

 

あなたは現在の「学ぶ環境」に満足していますか?

(全く満足していない1-10とても満足している)

◆視聴前「5」

今ある学ぶ環境は、日本ではとても普通なものであると思う。

◆視聴後「7」

映像を見て、もっと勉強をしたくても十分に教育を受けることができない人も多いことを知り、満足な教育を受けさせてもらっているのだなと思いました。

 

あなたは現在の「学ぶ環境」に満足していますか?

(全く満足していない1-10とても満足している)

◆視聴前「5」

学生である自分はいつも自分から行動しなきゃいけないと思いつつも受け身であり続けてしまうことに不満を持つことがあるので、今の環境のせいにするつもりはないが、受け身でもなんやかんや進級できてしまう環境に甘えているので、自分の中でうまく結論がでない。

◆視聴後「8」

単純に映画を見て満足に教育を受けられていない現実をみたら今の環境は十分すぎるぐらいだと感じた。

 

あなたは現在の「学ぶ環境」に満足していますか?

(全く満足していない1-10とても満足している)

◆視聴前「5」

どちらかといえば、教室があったり、教材があったりと学ぶ環境が整っているとは思うが、自由な発想力を養うことは難しい授業形態ばかりだと思う。だからこそ、まったく満足していないわけではないが満足していない寄りの5を選んだ。

◆視聴後「8」

ドキュメンタリーで見た子供たちは学校に行きたくても小さいながらに家計を支えるために仕事をしていることを知り、自分たちがどれだけ整った学習の環境で学ぶことができているのかを知ることができた。そのため、この子供たちの現状を知ることで自分たちがどれだけ恵まれているのかを感じることができた。

 

東洋大学 及川教授資料
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――あらためて、人の意識の変化を測るために、どうしてドキュメンタリー映画を使われたのでしょうか?


例えばフィクションだと作者のメッセージがはっきりしすぎてしまうんです。あらかじめ「これを感じ取ってほしい」というレールが敷かれた上に作劇がなされていくものが多いように思います。フィクションならではの長所というのももちろん沢山あると思うのですが、しかし、一方のドキュメンタリー映画には、切り取られた現実の中に様々な視点が存在し、その中で学生が何を一番感じ取るのかという自由度がより高いと思うんです。まさに現実社会と同じなんです。例えば『プラスチック・チャイナ』という作品には、環境問題、労働問題、教育問題など、多くの問題が凝縮されています。さらにドキュメンタリー映画では、正解がない中で自分はどう考えるのかを問われます。『さらばメコン川の竹橋』という作品では、伝統文化の保護が大切なのか、経済発展に伴う開発を優先すべきなのかを考えさせられます。学生たちは、統計的な有意差があるかないかはさておき、作品を通して本当にいろいろ考えたと思うんです。学生からは調査票を作成する過程で作品の論点を1つに絞るのがつらいという声が出ましたが、その分真剣に作品と向き合ったということかと思います。


――今回は取り組みとしては上手くいったといえますか?


学生たちも、私も、すごく充実感、満足感があったと思います。私自身も初めての取り組みで試行錯誤でしたが、比較的上手くいったと言えると思います。学生も、まず、こんな授業を受けたことがないと面白がってくれました。今までは、映画を観て感動したりすることはあっても、それで終わっていたでしょう。それを、何に感動したのかについて自分たちで分析し、整理するという取り組みは新鮮だったと思います。普段、こんなことを統計的に処理することはないわけですから。そして、自分の意識の変化と、他人は同じかどうかという比較、発見も興味深かったと思います。何によって意識が変わったのかが見えてくることで、次に進むべき一歩も見えてくるのではないでしょうか。


――ドキュメンタリー映画の教育的価値について先生はどうお考えですか?


学生たちが卒業した後、社会の現実に出くわして面食らってしまうことも多いと思うのですが、ドキュメンタリー映画で現実と向き合うことは、社会で生きていくための予行演習みたいなものかと思います。現実社会を知るための窓というか。ここで素材として扱われているテーマはアジアが対象ですが、ほとんどの学生にとって初めて目の当たりにする話題が多かったと思います。よその国の価値観に触れる経験というのは、日本という価値観、固定概念を打ち破って、あらゆる可能性を疑ってみようぜ!というチャンスを与えられるというのが大きいですね。今まで当たり前だと思っていたことが、当たり前じゃなかった、みたいな衝撃は、人間の大きな成長につながるのではないでしょうか。最近の学生と話していると、私たち大人が思う以上に、未来に対して悲観的なイメージをもった学生が多いことに驚くことがあります。私が学生の頃は、未来は楽しいんじゃないか、早く大人になりたいって、ぼんやりと思っていた感じがあるんですが。ところがいまの学生の中には、あまり明るい未来を感じていない学生も少なくないようなんです。どうせダメなんでしょ、みたいな。こちらとしては何を言っているんだと言いたいわけですよ。可能性は無限だと。何、勝手に自分で殻を作っているんだと。正解がない中で考える。考え続ける。考えることだけはあきらめちゃいけない。そうすれば君たちにはあらゆる可能性が開かれているんだと言ってあげたいです。今回の授業で学生たちがドキュメンタリー映画と向き合うことで、ささやかながらそうした気づきを得るきっかけになって欲しいと思っています。

 

利用作品

『プラスチック・チャイナ』

『キリバス 大統領の方舟』

『女性と水 尊厳は守られるのか』

『さらばメコン川の竹橋』

『泥に沈んだ街』

『スモッグ・タウン』

『難民の通る村で』

『チャダー 故郷への道』

『津波そしてさくら』

『津波の子どもたち』


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