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「アジアンドキュメンタリーズ」を活用して、高校生がドキュメンタリー映画に興味を持ってもらうためのSNS投稿を考える。

聖学院高等学校

担当教諭 伊藤航大さん(社会科教諭)


聖学院高等学校では、高校2年生の「現代社会探究」の授業で「アジアンドキュメンタリーズ」を活用していただきました。授業ではマーケティングを学ぶという一環で、高校生がドキュメンタリー映画に興味を持ってもらうためには、SNSでどんな投稿をすれば良いかを考えるという課題が出されました。生徒の皆さんは、1班から8班に分かれて、それぞれ“伝えたい”ターゲットを決めて、SNS投稿の原稿を作成し、発表するという取り組みでした。課題作品は『医学生 ガザへ行く』で、イスラエルによるガザ侵攻をテーマにした作品でした。


弊社代表の伴野とSNS担当も授業に参加させていただきました


――この授業の狙いは。

 

(伊藤先生)現代社会探求の目的は、まずは社会とつながること。さまざまな分野の第一線で活躍している人にふれて自分を相対化してほしいのです。学校での評価、成績はあくまで校内での評価にすぎません。そこから一歩出てほしい、井の中の蛙にならないでほしいというメッセージがあります。


今回の授業の狙いは、伝えたいことを伝わるように伝えること。「伝える」と「伝わる」の違いを意識するのがグランドコンセプトでした。重視したのは、いろんな媒体を使って表現をすること。プレゼン資料や、学校PR動画のほか、ポスターや新聞広告、コントのシナリオも作ったこともあります。どんな人を対象にするのか。SNSでどのように発信すればみんな見てくれるのか。思っているようにはいかないことに意識を向けさせるのが、SNSのマーケティングにこだわった理由です。動画全盛期の今でも、彼らは学術的なものやドキュメンタリーには興味がない。日本中の興味がない人に見せるための橋渡しが大きなハードルです。

 

――見てもらうためにどうするか。見せる側の立場で考えるのは面白いですね。授業の手応えはいかがでしたか。

 

(伊藤先生)本校の中学3年生は、全員ビジネスアイデアコンテストに出場します。アイデアの中にはアプリ開発とかSNSマーケティングを行うなどを解決策として提案してくる生徒たちがいます。ただ、残念ながらそれらの多くには魅力を感じません。理由は「解像度」が低いから。アイデアの一つ一つを「本当にそれできるの?」と身をもって体験してほしいです。この授業では、アプリの開発やSNSでのマーケティングは思っているほど簡単ではないことを、彼らに実感してもらいます。生徒は、誰に届ければいいかという意識、文面を作る難しさに気づいています。ある班の生徒は戦争を軸に、彼らが興味のある韓国アーティストBTSとリンクさせたSNSの文面を提出しました。その感性こそ、彼らがやることに価値があると思います。

 

――興味の外にあったドキュメンタリーに関心を寄せた生徒もいます。

 

(伊藤先生)生徒全員に刺さる授業コンテンツを毎回提供することは難しいですが、1年のうちで、一つでも刺さればいいですね。この授業を通してジャーナリストを目指したいという生徒も出てきました。興味を持って、ジャーナリストを目指すのなら、それだけで成功だと思います。


 

藤岡大己さん(高校2年)



授業を通して、自分の身の回りには起きていないこと、社会のことを考える機会になりました。班での取り組みということもあり、さまざまな視点で考えることができ、友達の意見を聞きながら良い企画を作っていくので、協調性も養われたと思います。


これまでドキュメンタリー映画には縁がなく、最初は関心を持てなかったのですが、観始めると次第に主人公に感情移入して、のめり込んでいきました。「自分がこうなったら」と考えることが多かったです。ガザ上空で爆撃が始まり、地下に避難するシーンが強く印象に残っています。


Xでアジアンドキュメンタリーズの発信を見ると、私たち高校生の心に響かせるには何かが足りないと思いました。そこで、多くの高校生が興味ある韓国アーティストであるBTSというワードを絡ませることで、まず投稿を読んでもらおうと思いました。ハッシュタグを工夫すれは、リンク先のコンテンツまで誘導できるのではないかと思います。この授業を通じて、社会を知ることができました。もっといろんな人に広められる場所をつくってみたいです。


 

菊池広大さん(高校2年)



映画の題材が、自分の興味のある分野だったのかもしれません。見たことがないガザの現状を、作品で知ることができました。主人公の医学生は、イタリアでの経験をガザでは何一つ生かせなかった。それだけ酷いことが起きているのだというリアル感が伝わってきました。


以前は、ガザという言葉をニュースで聞いても何も感じませんでしたが、今は注目するようになりました。将来は、ジャーナリストになりたいと思うようになりました。


私たちの班は、ターゲットが保護者世代でした。自分たちの親がどういう思いで子どもにお金を使っているのかを考え、ゲームではなく知識や情報にお金をかけるべきだと思い「課金」「チャージ」という言葉を使いました。


作品を視聴して感じたことは、紛争地域と貧困地域は似通っているとうこと。海外研修で行った貧困地域と共通していることが、ガザにはたくさんありました。実際にガザに行くのは難しくても、動画で知ることができました。


 

高橋虎之介さん(高校2年)



日頃はドキュメンタリーを頻繁に観るわけではなく、観たとしてもテレビのノンフィクションものだけ。海外作品は観たことがありませんでした。日本のドキュメンタリーと違ってナレーションがありませんでした。その分、緊迫感が伝わってきます。世界で一番注目されている紛争を、ドキュメンタリーで体験できることは、国際社会を知る上で大切だと思いました。


さらにドキュメンタリーには、ニュースでは伝えられない現実味や体験、日常があると感じました。


テーマは、「作品を高校生に知ってもらうためにSNSの投稿文を考える」でしたが、まず大学生に知ってもらってからその兄弟の高校生に波及させるという仕組みがいいと思って企画しました。ニュースで分からなかったことが分かると、論文が書きやすいのではないか。日本と関連づければ興味を引くのではないかと思い、私たちが10月に修学旅行で訪れた沖縄とそこでの戦争を引用しました。


深くは知らないことでもドキュメンタリーを観ると発見があります。知らないことがたくさんあるのだと実感できました。


 


――今後はどんなことを計画していますか。

 

(伊藤先生)現代社会探求の3学期はコンセンサスを取ることをコンセプトにします。弁護士と協力しての模擬調停や、クラスの中で模擬刑事裁判を実現してみるなど、一方的な発信ではなく相手からのリアクションがある中で解決策を求めていこうというのが3学期のテーマです。

 

いずれも、それぞれの道で活躍するプロとのかかわりを大事にしています。私はあくまで教師であり、ドキュメンタリーや法律などのプロではありません。プロが生徒の前に立つと、それだけで授業の空気が変わります。生徒たちが本物に触れ、外の世界を知りつつ自分を相対化することを大事にしていきたいです。


 

利用作品

(以下の30作品を生徒が自由に選んで視聴することができます)

『医学生 ガザへ行く』 

『ブラッド・ブラザー』

『デジタル人民共和国』 

『難民の通る村で』

『ミスター・トイレ 世界のウン命を握る男』

『ニュートピア』

『サラリーマン』 

『機械人間』

『日本の最前線』 

『ノクターン―兄弟の絆―』

『浮家の子どもたち』 

『アングリーバードとバナナ合唱団』

『ピアノ―ウクライナの尊厳を守る闘い―』 

『スノーランドの子どもたち』

『ロッキングスカイ』 

『わが祖国イランの正義を願って 人権弁護士ナスリンの闘い』

『SKYに届け!韓国受験戦争』 

『ウズビルへようこそ』

『ザ・ホース・ボーイ~奇跡の旅~』 

『共犯社会 殺される労働者』

『母との別れ―残酷で最大の愛―』 

『ラダック 氷河の羊飼い』

『ボパール 闘う市民たち』 

『漢字』

『呼ばれて行く国インド』 

『我らはジャーナリスト 報道の不自由な国イラン』

『太陽が落ちた日』 

『シカゴガール ネットVS独裁者』

『未来を写した子どもたち』 

『二重被爆〜語り部・山口疆の遺言』

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