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将来のこと、社会のことを考えるために/夏休みの課題で「アジアンドキュメンタリーズ」を視聴

成蹊中学校3年生

担当教諭 濱村愛さん(国語科教諭)


夏休みの課題で「アジアンドキュメンタリーズ」を活用した成蹊中学校では、「探究活動」に力を入れています。疑問を解き明かすために自分で考える、調べる、現地に足を運ぶことを大切にし、それを一人ではなく、できれば人を巻き込んで、協働作業の中で意見を出し合いながら最適解をプロトタイプしていくことや、自分たちのプランをプレゼンテーションすることも重視しています。取材に訪れた日は、それぞれが考える「10年後の未来」について生徒全員がプレゼンテーションをしました。現実社会の課題と向き合い、未来を考える「探究活動」の一環として、アジアンドキュメンタリーズをご活用いただいています。担当教諭の濱村先生や生徒の皆さんにお話を伺いました。



――今日の授業はとても魅力的でした。生徒に10年後について考えさせることの狙いはどこにあるのでしょうか。


(濱村先生)もともとはキャリア教育の視点から始まったプログラムです。いまの私立中高一貫校は、中学から高校へそのまま進学できるため、中学生が将来のことを考える機会に乏しいです。課題として10年後を考える、「考える機会を無理やりにでも作る」ことが目的です。


――生徒たちが現実に真摯に向き合っていて、自分の思いを伝えようとしていることに感動しました。アジアンドキュメンタリーズを採用したきっかけを教えてください。


(濱村先生)6月に、初めてドキュメンタリー映画を教材として使う機会があり、その反応がとても良くて、ドキュメンタリーを見たことがない生徒も「すごく良かった」「もっと見たい」と意欲的でした。夏休みを利用すれば、2時間近い映画もしっかり見られるということで今回の取り組みに至りました。



――私たちの学生時代は読書感想文でした。ドキュメンタリーを課題にして発表するというのは良いアイデアだと思いました。


(濱村先生)本は読むのに時間がかかりますが、映像だと入りやすいという理由もありました。また、生徒たちはコロナの影響で中学1年生のときの入学式は6月。4月から6月の間は、課題を与えてインターネット上のやりとりをしていました。その期間にTBSのドラマ『JIN-仁-』の再放送があったので、それを見て感想を書くという宿題を出したことがあります。映像を見て感想を書く、映像を見て家族で話し合うという機会を1年生の時に与えられていたのも大きかったと思います。作品の感想を何人かで共有できるというのは魅力です。


――最初は、中学生に見せるとショックが大きいのではないかと、こちらが心配しましたが、先生は「大丈夫です」とおっしゃいました。腹を括るというか覚悟のようなものを感じました。


(濱村先生)どういうものを見せるのか、作品選びは難しいですね。『JIN-仁-』も医療系のドラマでしたから、血が流れるシーンでは「見られなかった」という声もありました。今回選んだ中にはショッキングなシーンを含む作品もありましたが、「3年生だし」という勢いで押し切った部分もありました。「大丈夫だろう」と思って見せるしかないと。学年の先生の中でも意見が割れました。「ここまで見せてもいいのか」「引きこもりがテーマの作品は、身近に引きこもりがいたらどうするんだ」と。しかし最終的に選ぶのは生徒ですから、ラインアップに入れようと決めました。


――この10本を選ぶことに苦労はありましたか。選定のこだわりや基準も教えてください。


(濱村先生)全作品は視聴できないので予告編を見て選んだのですが、実際に見ると「こんなに衝撃的なシーンがあったのか」と驚くこともありました。先生の間でも「夏休み中にすごく考えた」と話題に上がる作品もありました。


将来は医療系に進む生徒が多いので、その方面の作品は必ず入れようと思っていました。いま話題になっていることとして、ロシア問題も入れようと思いました。まったく違ったジャンルで、馬についてのもの、生徒たちの感覚と現実のギャップを知ってもらうためにデジタル社会についてのものも。一番に身近であること、そして将来を考えてもらえる作品を選びました。


――生徒たちの反応はいかがでしたか。


(濱村先生)思った以上に見てくれています。衝撃はあったと思いますが、目を逸らさずに見てくれました。発表の中で「自分はなんて幸せなのだろうか」という声がありました。そこに気付いてもらえることが大きかった。見てもらえて本当によかったです。


 

菅野夏歩さん

作品群の中から、まず『デジタル人民共和国』を視聴しました。私は中国のネット社会に憧れていたのですが、その裏には黒く汚く下品で、お金に執着している人がたくさんいることに驚きました。作品がフォーカスしているのはライブチャットアプリでしたが、いまの中国社会の構図を表していると思いました。


中国のキラキラした部分しか知らず、そのキラキラに影響を受けていました。アイドルのライブ配信の場面では、前向きなコメントに対してファンから「頑張ってね」「いつもあなたがナンバーワン」などの応援がありましたが、その言葉が逆にアイドルを苦しめているのではないかとも感じました。


もう一本は『ロシアVSロシア』。ロシアに対しては、悪のイメージを持っていましたが、ロシアの中でも政府に反対している人もいました。ロシアというだけで悪いイメージを持っていたことを申し訳なく思っています。テレビの報道を鵜呑みにするのではなく、自分で調べて本質を見抜けるようになりたいです。


 

松永隆太郎さん

『プラスチック・チャイナ』を見て10年後のプラスチック問題を発表しました。中国では表と裏があるのだと気付かされました。取材当時の状況は、今でも信じられないくらいショッキングでした。結局、中国政府は廃プラの輸入を止めてしまったのですが、作品中の廃プラ業者のことが心配になりました。他に仕事がなくて、仕方なくプラスチック仕分けの仕事に就いていたのだと思いますが、その仕事がなくなったら彼らは仕事を失います。


親から「学校なんか行かなくていい」と言われる女の子がいました。子どもが学校に行けないのは、お金の問題とともに親の問題もあるのだと思います。教育の価値が分からない親に教育の大切さを発信できたら、いい世の中になっていくと思います。


表に出ている、目に見えることだけが報道されていますが、裏での出来事に目を向けられるようになったことは、自分にとってプラスでした。目にする日常の中にも、見えていない日常があるのだと思います。


 

門田ゆうなさん

医師を目指しているので、医学や病院に関連する作品を視聴しました。最初に見たのは『ブラッド・ブラザー』。私が調べたHIV知識とは違っていました。HIV感染者の子どもたちはすごく明るく元気で、偏見にも負けない。ネットでは「患者に触れたら終わり」という言説もありますが、主人公のロッキーは普通に、皿を共有したり子どもたちと触れ合ったりしていても、検査では陰性。彼もみんなのことを分け隔てなく愛しているのが心に残りました。


もう一作は『決心の時』。神経や背骨のことを調べたことがありますが、「折れたら終わり」のような大切な部分です。回復しようと頑張る患者の姿勢が印象に残りました。私が将来医者になったときに、もう一度この作品を見たいと思います。


ドキュメンタリーは、登場人物の人生が伝わってきます。インターネットの検索だけでは分からない、感じられないもの。世の中にはまだまだ偏見がありますが、私が医療の道に進めたら、偏見をなくして皆が平等な世界の実現に携わりたいです。


 


――今後の課題として挙げられることは何でしょうか。


(濱村先生)視聴作品の全てが生徒たちの将来につながるわけではないでしょう。私たちが選んだ10本が、興味のない子どもたちにはどう見えたのか。違う種類の作品、例えば明るく楽しい雰囲気のものがあっても良かったのかもしれません。


――ドキュメンタリーの教育価値、教育にドキュメンタリーを使える可能性はどこまであると感じますか。


(濱村先生)ドキュメンタリーには、その作品でしか見られないものがあり、自分が足を運べない地域のことも映像で見ることができます。映像で見る世界は本を読むよりも鮮烈です。一部分であっても生徒はかなりのショックを受けると思います。実際、何人かの生徒は「一人では見られないから友達と見た」と言っていました。それも現実で、そこに怖さを感じるのも中学生らしいと思いました。日本の子どもたちはあまり苦労をしていません。将来のこと、社会のことを考えるときに、ドキュメンタリーはいい教材だと思います。いま起きている問題についてもっと考えられるでしょう。


 

利用作品

『ブラッド・ブラザー』

『ミスター・トイレ 世界のウン命を握る男』

『HIKIKOMORI フランス・日本』

『決心のとき 患者に寄り添う医師たち』

『デジタル人民共和国』

『プラスチック・チャイナ』

『今日もどこかで馬は生まれる』

『森林伐採ーオリンピックのためにー』

『ロシアVSロシア』

『ニュートピア(ノーカット完全版)』

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