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テレビでは描けない「もっと考えるべき世界」を知る

桜美林大学リベラルアーツ学群

教授 塚本壮一さん

元NHKソウル支局長・解説委員



――「ドキュメンタリーを見る」という授業を始めたのはなぜでしょうか。

スマートフォンでの情報取得が当たり前の現在、若者のメディア離れが進んでいると言われています。放送界出身の私は学生たちに、ドキュメンタリー映画を通じて社会について考え、世界を知り、人間の心のありようを模索する機会を提供したいと思いました。


授業の最初のうちは「面白かった」「よかった」という感想にとどまっていた学生も、回を重ねるごとに作品に込められていたメッセージを読み解こうとするようになります。「どう受け止めればいいか、自分で考える」という行動変容が見られます。こういった授業以外で、作品をきちんと見る時間はなかなか作れません。学生たちに数多くの作品に触れる機会を提供できたことはよかったと思います。


弊社代表の伴野も授業に参加させていただきました。


――学生の反応や変化で、印象に残っていることはありますか。

献体をテーマにした作品『妻として母として』は、死について考える貴重な時間になりました。私たちは家族や親族が亡くなったとき以外に遺体を目にすることがありません。学生たちは衝撃を受けつつも、その意味を深く考えることができたようです。『街角の盗電師』では、主人公が「電気を盗む」という犯罪を軽々と行っています。それもまたインド社会の一部。まずは作品を楽しんで、さらに登場人物をめぐる社会的背景に思いを巡らせる。学生にとっても、深みのある思考にトライできたという充実感があったと思います。



――日本のテレビで放送されるドキュメンタリーとの違いは何でしょうか。

『プラスチック・チャイナ』で描かれる貧困生活は、テレビニュースの5分程度の企画ではとても伝えられません。泥水を飲むようなショッキングな場面もアジアの現実。深刻な場面を隠すことなく描き切る、入って行けないところにも潜入して撮影するのがドキュメンタリー作品です。テレビにも良質なドキュメンタリー番組はありますが、それでも描き切れない「もっと深刻でもっと考えるべき世界」を、優れたドキュメンタリー作品群から知ることができると思います。


――ドキュメンタリー映画の「教育効果」を感じますか。

題材そのものから、その国の社会や文化について、あるいはジェンダーの問題、経済格差について考えることができます。また、作品を通じて考える機会も得られました。通常、体験できないことを追体験し、制作意図を読み解くことで作品を自分事として考える。そういう訓練になったと思います。


科目や目的に合った作品を適切に選べば、活用法は十分にあります。まずはドキュメンタリーの世界の魅力を知ってもらうことが重要だと思います。事前に作品を見てもらい、授業では気づきや考えたことを持ち寄って議論しています。それができるのがオンラインの利点です。学生たちは、私が見落としていたことに言及することもあり、驚かされます。高校生以下では、学習指導要領とのリンクという技術的な問題はありますが、「まずは作品を観ましょうよ」と言いたいですね。


――先生が目指すものは何ですか?

知らない世界を知ってほしいです。日常生活を送るだけでは気づかなかったことを、海外ドキュメンタリーは見せてくれます。私は記者時代に朝鮮半島の担当でしたが、単に韓国や北朝鮮の出来事を伝えたいというのではなく、テレビを見ている人に開かれた目で海外のニュースを見てほしいという気持ちで原稿を書き、ニュース解説をしていました。その思いは今も変わりません。海外のドキュメンタリーを見ることで、「未知の世界」を知る。さらに一歩踏み込んで、日本と国際社会を考えるきっかけになれば素晴らしいと思います。


 

利用作品

・2022年度

『妻として 母として』

『ファリデ―を探しに』

『ミスター・トイレ 世界のウン命を握る男』

『未来を写した子どもたち』

『結婚しない、できない私』 

『プラスチック・チャイナ』

『鉄の男たち チッタゴン船の墓場』 

『兵役拒否』

『街角の盗電師』

『湾生回家』


・2023年度

『妻として 母として』

『ファリデ―を探しに』

『ミスター・トイレ 世界のウン命を握る男』

『未来を写した子どもたち』

『遠い愛を求めて タイの花嫁たち』

『ピアノ-ウクライナの尊厳を守る闘い-』

『38度線に潜る男<ノーカット完全版>』

『ビューイング・ブース-映像の虚実-』

『軍隊 韓国軍2年の兵役』

『漢字』

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